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タブレットは授業を変える? [教育について]

家族の元に戻って、ぼんやり新聞を読んでいたら、こんな記事が目に留まった。

2014年8月23日朝日新聞(大阪本社版)
耕論:タブレットは授業を変える?
http://www.asahi.com/articles/DA3S11312350.html

3人の論者に対するインタビュー記事である。これらを読んでいて、やっと世の中がここまで来たのかと思ってうれしくなった。

佐藤里美氏(「エデュアス」担当部長)の話を読んで
ソフト・ハードを作って売る立場の話しながら、長い意味でいい商売にしていくには、本当にいいものを出さなくてはならないという姿勢が見えて共感。低予算でも1人1台ずつ機器を持たせられるようになった利点は大きい。そこから多様な使い方が考えられるようになったことは喜ばしいこと。さらに次のようにも述べている。
残念なことに、教育目的の見えない導入も増えています。思考力や想像力を伸ばすためにどんな授業をめざし、だからどう使いたいのか。そんなシナリオがあってこそ私たちも最適な道具や環境を設計できる。
私がこういうICTを用いた教育について研究していたのは前世紀の末。その頃からメーカー側は「先生方はどういう授業をしたいか考えてください、そして機器にはどんな機能が必要か教えてください」と言っていた。この記事を読んでもそういう姿勢には変わりがないのだと思った。もちろん営利企業のすることだと言えばその通りだが、最終的に本当にいいものを出していかないと、長い意味で利益を出すことはできないという考えに則ったものだと思う。

今世紀に入ってICTを縦横無尽に使いこなす現場教師が増えてきた。そういう先生方の研究授業を見に行くと、授業者は「そもそも何のためにこういう機器を使うのか」を考えた上で授業に取り入れているのがよくわかるのだが、見に来る側は機器を見事に使うことに目を奪われてしまう。そして「こんな素晴らしい機器なんだ、使えばいいことがあるだろう」という話になっている。方法の目的化の典型例。メーカー側がこんなことを言っているのに教師がそれでどうするのか。

柳沢幸雄氏(開成中高校長)の話を読んで
素晴らしく良いことを述べておられるのだが、読者がそれをちゃんと理解できるかが心配。ここに挙げられている教育の例は「レベルの高い大学生に」「開成の生徒に」させるべき内容である。私は昔から述べているように「論理的に物事をとらえ、語る」という基礎的な能力が身についている、もしくは身につけようとする方向へ向いているならば大いにさせるべきであると思う。だが現状では大半の小中高生、そして残念ながら少なくない大学生には無意味か害があると言わざるを得ない。これを機能させるためには、小中高の教育を大きく変えなくてはならないと思う。ちなみに私自身はそれをすべきだと考えているが。

坪田耕三氏(青山学院大教授)の話を読んで
反対すること、付け加えることは一言もない。ノーベルの白川英樹氏の発言を借りて
「最近の学生は学力がなくなったといわれるけどそうじゃない、好奇心がなくなったんだ」と書いていらっしゃいました。その要因はいい映像や教材にあります。
とあるが全くその通り。私が長年、小中の算数・数学教育へのICTの導入に後ろ向きなのは、そういう「いいもの」を探してくればすべてが終わってしまうから。もちろんそこから先へ考えていくような教育が不可能だとは言わない。だが前述のとおり、機器を使うことが主目的となってしまうような現状では、そういうさらにハイレベルの授業はほとんどすべての教室では行われない。ひところ算数・数学の教科書にあった電卓マークはなぜなくなったのか。その検証・総括がないままにICT導入を進めるのは危険である。

人間の能力のある部分を代替し、しかもそこを強力に遂行してしまう色々な技術。しかしそれに踊らされて、こうしたものでは代替できない部分が退化してしまうことが問題である。

大昔、まだblogの形式が世に出回るずっと前、「子どもにはITや機器よりも虫取りや凧揚げだ」とWebサイトに書いたところ、IT関係の「えらい」研究者から「そんなのは妄言だ」と攻撃されたことがあった(その後も時たまその方の名前を見かけるが、常にその方は誰かに対して攻撃を加える方のようでガッカリである)。まあそんな昔から私が思っていたことがこうやってちゃんと俎上に挙げられたことには大いにうれしくなった。

教育においてICTを使うことは現状ではもはや避けられないし、その良さがないとは言わない。しかしこれを使って意味があるためには、その前にしなくてはならないことがある。これが私の昔からの主張である。

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