SSブログ

アウトプットが重要である [教育について]

京都橘大学の池田修先生から論文が送られてきた。

連続型テキストの読解を、非連続型テキストの表現から導く指導に関する一考察
~ 二回生ゼミ、京加留多の取り札作成を通して ~
『京都橘大学研究紀要』第42号 2016年2月18日発行

この論文の紹介blog記事はここ。
http://ikedaosamu.cocolog-nifty.com/kokugogakkyuu/2016/02/post-2d2d.html

池田先生とはもう何年ものお付き合いになる。といってもお会いしたことはない。ネット上でだけの知り合いである。しかし現場教師としての、また教員養成に携わる大学教員としての、さらには料理や写真や車など幅広く嗜まれる教養人としての、その生き方に深くあこがれる方である。

さて、今般お送りいただいたのは、大学生相手の授業実践についての報告である。面白いのは、国語科教育の授業の新しい試みでもあり、また同時に中学校(には限らないが)の国語科の教材開発についてのご報告であるともいえることだ。

内容は「京歌留多の取り札を作ってみよう」という活動である。ことわざや格言などが読み札に書かれているわけだが、それに対応する取り札を作るのである。

読み札の内容にあった取り札を作る。市販のこうしたカルタの取り札には絵が描かれていることが多い。古くから楽しまれてきたこうしたカルタについてその絵の内容を調べることも、たとえば時代背景や経済状況などとの関係もあって面白いだろう。

一方この実践では、それを身近な題材を使って作ってみようというのが課題になっている。そこでは読み札の文章が何を意味しているのかを吟味し、それをどう表現するかが主たる課題となっている。論文中では「連続的表現から非連続的表現への転換」というような形で表現されている。この連続/非連続的表現という概念を良く知らないが、ここでは「文章から映像への転換」ということであろう。

もしかしたら少しずれるのかもしれないが、小学校算数科を考えたとき、計算技術は当然大切。と同時に「日本語から算数・数学語への翻訳」が大切になってくる。その段階で理解が深まる。日本語話者である大学生に英語の文献を読ませるときにも、結局そのときに内容をどの程度理解しているかが重要なのだ。表現形態の転換には、ことがらの本質的な理解が必要となる。その点で素晴らしい活動だと思う。

この取り札を写真およびデジタル技術を使って作る。論文でも指摘されている通り、絵を描くというのは筆記用具があればできることなので一見簡単に思われるかもしれないが、絵が上手に/思い通りに描けるかということがそうとうに大きな障害となる。近年は容易に入手できるデジタルカメラ・スマートフォンとコンピュータによる編集を用いれば、特別な技術がなくとも十分に表現ができる(本文p.22 3(3)節)。拙旧ブログにて述べたように(コンピュータが子供をダメにする 2008.9.12)ICT機器万歳でないのは今でも全く変わらないが、同時に内容をどうするかという視点で深く掘り下げるべきものであるのも確かである(よくぞ言ってくれました 2008.11.5)。

このことはICTの世界に留まらない。たとえばLegoやニューブロックに代表される積み木・ブロック系の玩具は、子どものおもちゃに留まらず、技術をさほど問わない重要な表現方法(ジャンルとしては彫塑ということになるか)である。前職、岡山大学教育学部で親しく接して頂いた橋ヶ谷佳正教授(デザイン学、タイプグラフィー)は、絵を描いたり彫刻をしたりという技術は確かに大切だが、それがなくても彫塑表現はできると言って、実際に学生にブロックで大きな作品を作らせていた。

さて、表現技術のサポートとしてのICTの活用はすでに述べたように力量以上に見栄えのいい作品を生み出してしまう可能性もあり、諸刃の剣ではある。だが出来上がったものを容易に推敲し、表現しようとする内容を深めることに用いることに努めるならば、色々な効果が期待できるのである。

学習におけるアウトプットの重要性については、この論文でも述べられている。アクティブラーニングなどと呼ばれて最近流行しているものもその関係だ。我々数学をやっているものはほとんど例外なくゼミナール形式で鍛えられており、いまさらなんだという気はしている。

ちょうど先日ツイッターに書いたことを思いだした。岡山大学教育学部在職時、学制は3年次から研究室配属になる。Sobu研では3年次初めから原則英文のテキストを読み始め、3年次の終わりでいったん休む。それから教員採用試験の勉強をし、試験が終わった秋口から卒業研究に取り掛かり、興味のある方面の書籍を読み次いで自分の大きな世界を作り、それを論文にする。その休み明けももちろんだが、「論文が書きあがったとき」「口頭発表の準備ができたとき」「実際に口頭発表が終わったとき」に学生は自身の大きな成長を感じる。

今回の論文を拝読して、私が学生に2年間かけてやってきた指導内容を。短い授業時間のなかで体験させている池田先生のこの取り組みはFacebookで時々上げておられたのでなんとなく知ってはいたが、こうしてまとめたものを見て、改めて素晴らしいものであると思った。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。